傲慢と善良 辻村深月 

小説

今回は、辻村深月さんの『傲慢と善良』をご紹介します。
本屋さんでこのタイトルを目にしたとき、わたしは迷わず手に取りました。比較的やわらかめのタイトルが多い辻村深月さんの作品の中で、“傲慢”と“善良”というある種の重苦しさに触れてみたくなったのです。

そしてそこに広がっていたのは、紛れもなく辻村深月さんの世界であり、誰しもが自分だったら?…と考えてしまうような身近な世界でした。
主人公は、晴れて婚活が実り数か月後に結婚式を控えた30代の男女 架(カケル)と真美
物語は真美が架の前から姿を消すところからはじまり、そこに至るまでの各々の人生を振り返りながら進んでいきます。


とにかく人間の本音がこれでもかというほどにリアルに描かれ、読者もいつのまにか自分自身を振り返るはめになります。

架は婚約者の不在の理由を探るべく、真美の周囲の人々に話を聴き、あらためて自分の生きてきた環境と真美の生きてきた環境に触れます。

「真美の人生が、狭い価値観の中で蹂躙されている」
「真美はとても善良な女性だった」
「悪意とかそういうのは、人に教えられるものじゃない。巻き込まれて、どうしようもなく悟るもの」…
そして真美が姿を消したのは、決して突然の出来事ではなかったという事実にたどり着くのです。

一方で真美も必死にもがいていました。
「ただ一度、これまで守ってきた、善良さを捨てて――捨てさせられて」
架から遠ざかり、自分自身を振り返りながら「私は架くんにちゃんと向き合っていただろうか」と考えるのです。


怒りながらも期待をし、離れながらも求めてしまう彼女の葛藤に共感できる人は多いのではないでしょうか。
あまりにもリアルで、目をそむけたくなる瞬間があると同時に
あ、みんなそうなんだ!
自分だけが悪いなんて思うのは“傲慢”なのかなと感じさせてくれます。

「結婚と恋愛は別」なんていう常套句を口にしつつも、婚活に疲れた人
実家の母親とどうしても分かり合えない人
彼女に結婚を迫られている人
恋人に思っていることが言えない人
友人に紹介された人の見た目だけがどうしても受け入れられない人(笑)
いったん立ち止まって自分の問題を解決したいと思っている人
日々をがんばって生きている人

ぜひこの本を手にとってリアルな世界をのぞいてみてください。
共感とともにぶっ刺さり、いつのまにか気持ちが楽になっている不思議な物語です。
我々の人生に幸あれ!!